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Sairuma!
企画*配信 佐枝せつこ/川野ヒロミ
佐枝節炸裂!
噂の「サイっち本」
このコーナーでは、佐枝せつこがジャンルにとらわれず、人生に再スイッチ
が入りそうな本をご紹介していきます。

スピーチライター
言葉で世界を変える仕事
蔭山洋介 著
角川one テーマ21
株式会社KADOKAWA
国会中継を見ていても、人気のある政治家はスピーチがうまい。対立政党を批判するときでもウイットに飛んだ物言いで責めたり、身振り手振りをつけて表現方法も実に豊かだ。とはいえ、果たして何人の政治家がご自身でスピーチ原稿を書いているのだろうか?
秀逸なスピーチには、その道のプロが関わっていることも多いという。本書は影の存在でありながら、最近にわかに注目を集めているスピーチライターの仕事や役割について、現役スピーチライターが紹介した一冊。
オバマ大統領が語った「YES WE CAN」の言葉を創ったのはアダム・フランケル。「バイ マイ アベノミクス」「汚染水は完全にブロックされている」など安倍首相に世界中に大きなインパクトを与える発言をさせたのは、谷口智彦というスピーチライターであるという。その他にも本書には歴代総理のスピーチライターの名前がある。
日本の総理大臣のスピーチ原稿はどのように作られているのかのくだりを読めば、政治は実はスピーチライターたちが動かしているのでは? と勘ぐってしまうほどだ。
スピーチライターの仕事は政治にとどまらない。式典挨拶やセミナー、講演会、セールスプレゼンテーションなど、ビジネス系スピーチライターの仕事は幅広く、様々な分野の人たちがクライアントになりそう。スピーチライターには、高いコミュニケーション能力も必要とされる。
そういえば筆者が某企業の経営者に講演をお願いしたとき、打ち合わせにはスピーチライターを担当する社員の方が同席されていた。講演内容はその社員の方が書かれるのだが、影武者のようにトップの方の心の動きまで理解しておられたのには驚いた。
ゴーストライターは影の存在だが、スピーチライターは今やしっかりと市民権を得ていることが、本書を読めば一目瞭然。スピーチライターという仕事は、専門的な知識を持つのは当然のことながら、ときには経営に関わることもあるという。帯に世界を動かす影の職業とあるが、まさにその通り。
本書では、話し手の腑に落ちる言葉を使う、共感を積み上げるなど、仕事の手順まで披露している。日頃スピーチをする立場にある人はもとより、話ベタで仕事に支障を来たしている人や自分の思いがうまく伝えられず人間関係で苦労している人にも、ぜひお勧めしたい。
(佐枝せつこ)