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Sairuma!
企画*配信 佐枝せつこ/川野ヒロミ
佐枝節炸裂!
噂の「サイっち本」
このコーナーでは、佐枝せつこがジャンルにとらわれず、人生に再スイッチが
入りそうな本をご紹介していきます。
「日本人の意識構造」
会田雄次 著/講談社現代新書
経済はもとより情報、教育などさまざまな分野でグローバル化時代を迎えている。「グローバル化」とは世界を一体化すること。その競技が世界中に広がり、オリンピック競技にもなった「柔道」をイメージするとわかりやすい。
グローバル化により知名度も競技人口も世界規模で大躍進した柔道だが、その一方で、日本独自のルールや形が変えられるという問題点も存在する。
日本人の価値観や精神を守りつつグローバル化を進めていくためには、日本人とはどういう民族なのかをしっかり理解しておくことが必要といえそうだ。
そこで本書『日本人の意識構造』の登場となる。昭和40年代に出版されているが、今読んでも参考になることが多い。
子供を危険から守るとき日本人は必ず子供を前に抱きかかえるが、アメリカの女性は両手を広げて敵の前に立ちはだかり仁王立ちになって子供を危険から守ろうとする。日本人とは正反対の姿勢をとるという。
日本人独特なモノの考え方や発想は、背を外側に向けて、うつ向き、内側を向いて守る守備体制から生まれてくるのではないかと著者は語る。本書は日常のなにげない動作や人間関係に表れる意識下の民族的特質に注目し、日本人とはどういう特質を持っているのかをあざやかに描き出している。
イギリスと比較した東京帝国大学時代の話も面白い。イギリスではケンブリッジ大学を出ていても、貴族や上流階級に属するお金持ちでなければ出世の見込みはなかったが、日本では東京帝大卒の肩書きは素晴らしく、優秀な成績で卒業すれば出世はできるし、貧しい家の出であっても「学士様なら娘の婿に」と家柄さえも手に入れることができたという。
日本では才能や努力次第で“どこの馬の骨でも出世できる”といえるだろう。百姓出身の秀吉が圧倒的な人気を集め続けている理由は“そこ”だと言われれば、なるほど!と大きく頷きたくなる。
日本人独特の“世界観”の原点を戦国時代に求めているのも興味深い。そういえば、茶道も華道も能も狂言もこの時代に生まれているのだ。
本書のあとがきには「もう戦後の自失を回復して日本人自身が日本を発見してよいときではないか」とある。
「日本人が自らの長所と短所を見きわめ、新時代へ前進する手がかりを掴むべきだ」とあるが、まさにグローバル化へ向かう今の時代へのメッセージともいえるだろう。 (佐枝せつこ)