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佐枝節炸裂! 

 噂の「サイっち本」 

このコーナーでは、佐枝せつこがジャンルにとらわれず、人生に再スイッチが入りそうな本をご紹介していきます。

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作家・クリエイター志望者必見!!!

つわもの編集者の作家デビュー作 

芝田暁  著  駒草出版

業界では知る人ぞ知るつわもの編集者に芝田暁さんという方がいる。今から20年ほど前、私は幻冬舎時代の芝田さんにとてもお世話になった。素人だった私にエンターテメント小説とはなんであるかを教えてくださり、芝田さんのおかげで、賞金1000万円の公募の賞にノミネートされる作品を何作も書くことができた。落選したのは私に力がなかったからで、芝田さんには今でも申し訳ないと遺恨に思い続けている。

 

その芝田さんが編集者から作家に。本書には、編集者として様々な作家にヒット作品を書かせた経緯が赤裸々に書かれている。

 

担当された作家と作品は、山本周五郎賞を受賞した梁石日の『血と骨』(幻冬舎)をはじめ、直木賞作家浅田次郎の痛快人生必勝エッセイ『勝負の極意』(幻冬舎アウトロー文庫)、ミステリー界の第一人者で巨匠森村誠一の『森村誠一の写真俳句のすすめ』(スパイス)、宮崎学・大谷昭宏『グリコ・森永事件 最重要参考人М』(幻冬舎)他多数。

 

新堂冬樹の『無間地獄』(幻冬舎)は、幻冬舎時代の芝田さんが「今最も力を入れている作家で、絶対に売れます」と私に直接手渡してくださった作品である。

 

「金のない奴は首がないのと同じ」と、とことん人が堕ちていくその作風には度肝を抜かれた。刺激を通り越して覚せい剤を打たれたような衝撃だったが、私なりに刺激を反映させて書いた作品が『ベッド・イズ・バッド』(ホラーサスペンス大賞最終候補・横溝正史ミステリー大賞最終候補)だ。
 

構想段階から登場人物の性格やストーリー展開に渡るまで、私の感性を生かしつつも、ご自身の感性にも近づく完成度の高い作品へとうまく誘導してくださった。そして最終候補に残ったときは一緒に結果を待ってくださった。

 

本書には梁石日の直木賞の選考会での文芸編集者としての仕事が事細かに描かれている。飲み屋で3時間近く結果を待っていた報道陣と編集者は落選が分かった時点ですっと引き上げ、受賞者のいる場所へ向かったとある。

 

賞レースとは、売れる作品を生み出す作家を誕生させる場であり、受賞できない作家=売れない作品には要はないのだ。「あまりにドライではないか」と憤るのはおかしい。編集者とは売れる作品を書いてくれる作家を見出す目利きなのだ。

 

とても育ちの良い上品な青年という印象だった芝田さんが、なぜアウトロー作品に傾倒されたのか。本書にはご家族のことなども書かれていて、ほんの少しだけ理解できた気がした。

 

「実に面白い。心が踊る。血が騒ぐ」本書の帯に幻冬舎社長の見城徹氏の言葉があるが、まさにその言葉以外の形容は見当たらない。本書には芝田さんの編集者としての手練手管がすべて吐露されている。作家・クリエイタ-志望の方は勿論、多くの方にお読み頂きたい。

(佐枝せつこ)

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