top of page

輝いているあの人に聞く目からウロコのストーリー

佐枝せつこの「ゲストルーム」

夢は叶う!「人生定年なし時代」を先取りしたエンジニア
第8回のゲスト
作家・鳴海風さん
  (4回連載/その2

長年、会社員をしながら小説を書き続けてこられた作家、鳴海風さん。2013年(鳴海さん曰く「正確には2014年3月末にグループ会社での再雇用延長を中止した。それで私は、2014年3月でデンソーを卒業と称している」)に定年退職をされてからは、執筆の他に講演やセミナー講師の依頼が殺到し、退職前より忙しい毎日を過ごしておられるようだ。

 

好きなことを仕事にできるのは誰もが羨む生き方だが、会社でのハードワークをこなしながら、小説を書き続けた鳴海風さんは日常生活で様々な工夫をしたという。「人生定年なし時代」を先取りする作家、鳴海風さんの魅力を4回に渡ってお伝えします。

その2
――職場の方たちは同僚に作家がいることをどう受け止めておられましたか?

 新人賞をとってプロデビューするまで、自分が小説家を目指していることはいっさい職場では話しませんでした。

 入社して3年後に同じ部に配属されてきたのが、東野圭吾氏でした。彼も私と思いは同じだったようです。その2年後に彼は江戸川乱歩賞を受賞してプロデビューし、彼の正体が明らかになりました。しかし、職場内での受け取り方はとても暖かいもので、会社の同僚はもとよりトップまで祝福していました。

 その後、彼は、小説家として生きて行けると判断したのでしょう、数年後に会社を辞めました。その時点でも私はまだプロデビューできておらず、また小説家を目指していることを口外していませんでした。

 私が歴史文学賞を受賞してプロデビューできた時、職場内の人たちは、誰も私が小説を書いていたとは信じませんでした。なぜなら、会社で猛烈に働いていた私に小説を書くヒマなんてあるはずないと思ったからです。

 私にとってプロデビューまでの道のりは、大変に長いものでした。長く続けてきたからやっとたどり着けたのです。そして、その後の社内の反応は、東野圭吾氏のときと同じで、とても暖かいものでした。

 しかし、プロデビューした年、私はマイホームを建て、3人目の子供が生まれ、会社では課長に昇格したのです。チャンスがあれば軌道修正して小説家に、と考えていましたが、短編小説で新人賞をとっただけの私が、すぐに会社をやめられるはずがありません。

――エンジニアと小説家。どちらも片手間にできることではありませんが、会社員をしながら小説を書き続けたモチベーションはなんですか?

 私が小説家を目指していることが明らかになっても、社内の雰囲気は変わりませんでした。特に、仕事の面では、小説は小説、仕事は仕事、と割り切って付き合ってくれましたので、責任のある仕事を次々に私に与えてくれました。会社の風土が良いこと、つまり人間関係がきわめて良好なことは、どんなに厳しい仕事でもやりがいをもって挑戦できるということです。

 プロデビュー後も、私は、以前と同様にモーレツサラリーマンでした。

 一方、プロ小説家としては、短編小説が1本評価されただけですから、注文に応じて実績を積む必要がありました。私の次の目標は、自分の本を出すことでした。

 実は、会社生活だけでなく、私生活も超多忙でした。新興住宅地にマイホームを建て、3人の子供を育てていれば当然ですが、私も家内も、町内会の役員、小学校と中学校のPTAの役員をすべて経験しました。

 したがって、プロ小説家として、1年に短編小説を1本書くのが精一杯で、それらの短編と書下ろしを加えてやっと1冊の本が出せたのは、プロデビューから6年後のことでした。
 会社生活も私生活も充実した中で、処女出版を達成したいということがモチベーションだったといえるでしょう。

 その後の出版ペースは、平均して3年に1冊です。私にはそれが限界でした。

エンジニアと作家を両立させ、家庭では良き夫、父として誰に対しても誠実に向き合ってこられた鳴海さん。落ち込んだときやビンチに直面したときはどのように切り抜けてこられたのかは次回にお聞きします。(続きはコチラ↓)

鳴海風プロフィール
1953年 新潟県生まれ。愛知県美浜町在住
1980年 東北大学大学院機械工学専攻修了。

1980年 日本電装(現株式会社デンソー)入社。
1992年 「円周率を計算した男」で歴史文学賞を受賞
2006年 日本数学会出版賞受賞
2010年 愛知工業大学大学院で博士(経営情報科学)取得
2013年 名古屋商科大学大学院でMBA取得。デンソーを定年退社

著書  
「円周率を計算した男」新人物文庫 
「和算小説の楽しみ」岩波書店
「江戸の天才数学者」新潮選書
「星に惹かれた男たち」日本評論社 他多数

bottom of page