世の中の見方が少しだけ変わるWebマガジン
Sairuma!
企画*配信 佐枝せつこ/川野ヒロミ
川野ヒロミのクリエイターの箱
イラストレーターやアーチストに、作品やお仕事のこと、人生のターニングポイントなどについてお聞きしていきます。クリエイターならではの視点や発想方法なども、ぜひ注目ください。
第4回
ジュブナイルイラストレーションへの取組み
イラストレーター・キモトケンジさん
特撮番組などをモチーフに、胸がわくわくするような空想、冒険活劇の世界「ジュブナイルイラストレーション」に取り組むイラストレーター・キモトケンジさんにお話をお聞きしました。

自己紹介をお願いします
アナログの版下やレイアウト、ファンシー商品のデザイン等を経てフリーのイラストレーターとして活動しています。主に紙媒体で英語等のテキストや参考書、クイズ本等ムック類のイラストを手がける事が多いです。ジュブナイルタッチでの仕事はまだまだ少ないのが現状です。
ジュブナイルイラストレーション
について説明をお願いします。
私が子供の頃(60〜70年代)に好きだった漫画やアニメ(当時の言葉で言うなら漫画映画)、特撮番組等をモチーフに胸がわくわくするような空想、冒険活劇の世界を描いています。
「冒険活劇」とは探偵やスパイ、海賊や忍者など子供の憧れるあらゆる「カッコイイ」が満ち溢れる世界。空想活劇は更に日常を超えた科学万能の(今とは別の)21世紀世界で繰り広げられる未知の冒険譚。これらを総してジュブナイルイラストレーション」と命名しました。
「ジュブナイル」とは「少年少女の」とか「少年少女向けの」を意味する単語で「ジュブナイルSF」の様に小説や映画等の分野で使われます。
ジュブナイルイラストレーションを
描き始めたきっかけは?
発注に従って絵を描くのは下請けの商業イラストレーターとして当然の仕事ですが、ある頃から徐々にその事に対して「技術の切り売り」ではないかという感覚が強くなってちょっと嫌気がさしていた時期がありました。
そんな時に、仕事の合間に息抜きでMacで何気なしに描いたのがブーツにマフラー、光線銃を構えた往年のヒーロースタイルの少年の絵だったのです。それが“ものすごく楽しかった”のが、そもそものきっかけだと思います。
その後しばらくは、自分が好きだった仮面ライダーやウルトラマン等、既成のヒーロー物を誰に見せるでもなく、あくまで自分の精神衛生をはかるために描いていました。ただこれだと著作権の関係で外に向かって発表する事が出来ません(現在、一部自サイトでUPしていますがいずれも許諾の取れたものです)。
絵を描く人間の性としてはやっぱり人に見てもらいたい。そこで徐々にオリジナルも描き始めたのですが、まだプライベートな作品という感覚が強く、趣味に走ってただただ大好きな石森章太郎(現石ノ森章太郎)作品の模倣的な絵ばかり描いていました。が、ここで一度壁に突き当たります。
好きすぎるあまり「石森タッチを模倣する」というより「石森章太郎その人」になりたいという願望が強すぎて…。似せる事にばかり気持ちが行き過ぎてしまい「楽しんで描く」という本来の目的を見失い、創作に息苦しささえ感じるようになってしまいました。
そこで改めて創作テーマを整理し直し、画風については最初のラクガキのベースにもなっていた東映動画による往年の「長編漫画映画」、その全体的なイメージを基本に置きました。
なぜ「長編漫画映画」をベースにしたのかと言うと、そこには前出の石森章太郎はもちろん、敬愛するアニメーターの大塚康夫や森やすじ、宮崎駿、小田部洋一(以上敬称略)等々、私が絵を描く上で大きな影響を受けた多くの人たちのセンスとエッセンスが凝縮されており、私の絵の原典そのものとも言える存在だからです。

ジュブナイルイラストレーションをはじめてから、自分自身の中で変わったことはありますか?
変わったというより戻ったという表現の方が合うかもしれません。仕事で描くイラストのタッチは基本的に「方法論に合わせた作り物」で悪く言えば「既製品」です。
私が初めてイラストの仕事に足を踏み入れた頃は今と違って、「漫画絵」や「アニメ絵」は広告業界でもファンシー業界でも完全に御法度の存在、白い目で見られる程まったく必要とされていない時代でした。基本が「漫画絵」だった私は自分を封印して、「既製品」になり得る「絵」を造る事で仕事をするしかありませんでした。
元々アニメーター志望だったので、様々な絵が描けるようにと意識的に自分のタッチを固定化する事を避けていたので、その作業自体はさほど困難な事ではなく商業イラストレーターとしてそれも止む無しと当時は思っていました。しかし、オリジナルタッチを持たないことはやがて自分の方向性を見失う結果ともなり先に書いたような「切り売り」感覚に悩まされる羽目になりました。
ジュブナイルイラストレーションを描き始めたことは、迷走していた自分を子供や学生時代の純粋に楽しんで絵を描いていた頃の自分に引き戻してくれた上に、これから先の創作を続ける上での確固たる足場となりました。

展示作品

ポストカードなど

創作のアイデアやヒントは
どのようなときに湧きますか?
子供の頃の思い出をはじめ、60〜70年代を中心とした古い映画やテレビをCSで観たり、小説や漫画、当時の少年雑誌やSF関連書籍のムック本を読んだり、オークションで古い玩具を買い集めたりすることが刺激となり、アイデアの元にもなっています。
基本的に物語のワンシーンをイメージして絵を描く事が多いので、シチュエーションから先に考えますが、「宇宙船」や「拳銃」などその時々の自分の描きたいアイテムから発想する事も多いです。
アイデアは机に向かってる時以外にひらめく場合がほとんどです(笑)。思いついたら覚え書き程度のラフを描きますが、そのまま描いて推敲するより寝かせて頭の中で転がしている時間の方が長いです。
その間にタイトルも一緒に考えます。タイトルが結構重要で、そこが決まるとイメージが一気に具体化する事も多いです。気に入ったタイトルやフレーズを思いつくと取りあえずメモ帳などにストックしておきます。
創作の上で大切にしていることや
ポリシーなどはありますか?
「自分が好きなものを楽しく描く」これが大前提です。
「アート的な解釈、ひねりを加えない、ちゃかさない」
自分はアーティストでは無く、自分の作品もアートとは思っていません。自分が子供の頃に大好きだった世界をそのままの気持ちで描いているだけです。アートを気取った余計なひねりや解釈は蛇足でしかありません。あくまでもストレートな表現にこだわって描いています。パロディ的な味付けをする事はありますが、その場合もバカにするのではなく敬意と愛情を忘れないよう心がけています。
「野暮ったさを味わいに」
絵としての野暮ったさという意味もありますが、私が使っているIllustratorというソフトはどうしても絵が固くシャープな仕上がりになりがちです。そこであえてスキを創るため矩形や直線ツールの類いは使わず垂直平行なども含め極力目分量で描いています。あくまで微妙なズレですがそれが手描きの柔らかさに通じるのではないかと思っています。
「レトロでは無い」
これはちょっと説明が難しいのですが、私はジュブナイルイラストをレトロ(あるいはレトロフューチャー)としては描いていません。ジュブナイルの創作テーマのひとつは「果たされなかったもうひとつの21世紀」というものです。アイデアとタッチはレトロでも自分の頭の中を通って生まれたこれらの作品は現役バリバリの「今」なのです。

2014年を振り返って…。
印象的なできごとは?
3月に開催したGallery SPOONでの個展「冒険活劇大作戦」です。憧れだったGallery SPOONで個展を開催出来た事は大きな誇りです。
次にFacebookを始めたこと(正確には一昨年の11月からです)。元同僚と連絡が取れたりネットの古い知り合いとも付き合いが復活したり。新しい方々ともお付き合いの幅が広がりました。さらにその縁で個展以外にも多くのグループ展に参加する機会を得、そこからさらにお付き合いの輪が広がったことなどです。
2015年にやってみたいことや
将来の夢を教えてください。
7月のクリエイターEXPO東京に参加します。東京へは気の遠くなるくらい昔に観光で行って以来なので、今からドキドキです!
やってみたい事は手描き作品を描きたいです。パソコンで絵を描けば描くほどに「結局CGは手描きにかなわない」という思いが強くなります。昔はよくアクリルガッシュを使っていました。油絵の道具も持っていますが基本下手くそなので人前に出せるようになるにはハードルが高そうです(汗)。
3D技術を収得し、3Dプリンターでオリジナルフィギュアを創ってみたいです。絵と違ってこちらは造形技術の稚拙さがもろに出るので、あえて機械頼みを目論んでいます(笑)。
それとオリジナルアニメを創りたい。古くからの夢なのでいつか必ず実現したいです。個展もまたやりたいですね!
最後に「ジュブナイルイラストレーション」一本で食べていく。究極の夢はこれ!
キモトさんの益々のご活躍をお祈りしています!
ありがとうございました!
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■キモトケンジ プロフィール
大阪デザイナー学院、中退。出身、在住ともに大阪。広告版下をかわきりにデザイン事務所を経て、ファンシ-メーカー、(株)ユ-カリ社入社。その後イラストレ-ターとして独立。現在に至る。
■主な活動暦/エディトリアル
・NHK出版「働きすぎる若者たち」
・数研出版「デュアルスコープ総合英語」
他多数
■主な活動暦/キャラクター
・オオサカ・マイドプラザ
(大阪中央卸売市場)
・週刊釣りサンデー別冊つりば王
他多数
■主な活動暦(最近のものから)
・13年9月イロリ村にて
「ヨリドリミドリ展」参加
・14年3月ギャラリーspoonにて個展
「冒険活劇大作戦」開催
・14年9月イロリ村にて
「ヨリドリミドリ+展」参加 他
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