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川野ヒロミのクリエイターの箱 

第12回
見る人を絵の世界へ誘う。

立体都市「夛果海原(タカアマハラ)」を描く 制作者の世界観と日々の制作

画家・でるもなか さん

一目見た瞬間「この絵の中に入ってみたい!」と思う絵に出会いました。

作品名は「第弐江乃電・小田急・波乃浦驛」。高さ約1メートル、横幅2メートル以上の大作で、制作者の「でるもなか」さんが創造した異世界、立体都市「夛果海原(タカアマハラ)」が描かれていました。

透明感のある色彩、独特な形の建物、どこかノスタルジックな空気感が印象的な「夛果海原」は、どのように誕生したのでしょうか? 

その世界観や日々の制作について 制作者の でるもなか さんにお聞きしました。

「夛果海原、到着!」より抜粋。
作品中に度々姿を見せる12歳の「岩村少年」。ふとしたことから夛果海原を訪れることに。「岩村少年」には画家「でるもなか」の、現実の身上と重なる部分があるという。

最初に自己紹介をお願いします。
 

神奈川県出身・在住の男性です。30歳頃から色鉛筆で絵を描き始めました。画号は、往年のテノール歌手「マリオ・デル=モナコ」の輝かしい歌声に感銘を受けたことから「でるもなか」としました。主に夏の光景、少年少女、空想上の異世界や街並みを中心に描いています。

 

制作者からみて「夛果海原」とは、どのような作品なのでしょうか?

「夛果海原」は、ずっと以前から色鉛筆で描いていた「ココア・タウン」という異世界の街並みと、現実と想像が一体化した作品「もうひとつの湘南」という2つの世界観が融合して生まれた作品です。

*「ココア・タウン」の詳細はコチラ↓

http://www.studiopuanpowan.com

 

「夛果海原」の世界には、「第弐江乃電」という「もうひとつの湘南」と「夛果海原」を結ぶ鉄道があります。現実世界の江ノ電は、藤沢と鎌倉を結ぶ鉄道路線ですが、「第弐江乃電」は途中駅の「江乃島」から分かれて、海原を沖へ、沖へと進み「夛果海原」へと向かって行きます。

 

例えば、旅人が「第弐江乃電」に身を委ねて湘南から夛果海原へと向かって行くとすれば、その到着がいつになるのかを予想するのは難しく、また、旅人が必ずしも夛果海原に辿り着けるとは限らないのです。

 

このような「夛果海原」の世界観や題材については、当初からテーマが在ったわけではありません。私が描きたい光景を描くための舞台が「夛果海原」です。そこには、急峻な地形を生かした独特な街並みが展開され、私の思い通りの街並みや交通機関、そして、これから描いてゆく自然や人々や神々の坐す(まします)領域などが存在します。現実とはどこか異なる景観を、これからも展開してゆきます。

「第弐江乃電とプアンカフェ」
夛果海原ともうひとつの湘南の途中地点。何層に重なる立体都市の魅力が垣間見られる「夛果海原」の中の一シーン。

絵を本格的に描き始めたのは30代に入ってからだとお聞きしていますが、どのようなきっかけがあったのでしょうか?

 

幼い頃には新聞の折り込みチラシの裏に、鉛筆で毎日のようにクルマの絵を描いていました。中学生の時にはメカ満載の絵を、高校生になる女の子ばかりを描くようになり…。とはいっても、結局は落書きの範疇のようなもので、それ以降はほとんど絵を描くことは無かったのです。ただ、高校3年生の時に一年間、日曜の午前中だけ、近所にあった大人のための絵画教室に通って水彩画を習った経験があります。

 

30代に入った頃、所属していた合唱団の定期演奏会のプログラム・パンフレットのデザインを任されました。鉛筆で表紙、裏表紙で一枚絵になるようにファンタジック(風)なイラストを、また、中のページにも挿し絵を描いたところ、それが周囲の方々には中々に好評で、継続的に描くようになりました。

「月山珈琲と潮風」(もうひとつの湘南)

でるもなかさんの描く絵に登場する季節は【夏】だけとのこと。なぜ、夏以外の季節は描かないのですか?

 

私が夏しか描かないのは、10代の後半から30過ぎまでの人生の盛夏とも言える期間に、主に「夏」という季節に、強烈な、刺激的な、若者らしい経験を経てきたからです。私に染み付いた夏の記憶の中で強烈に残るのは、離れ島で、陽に灼けた仲間達と、海水パンツ姿で必死に自転車のペダルを漕いでいる時のもの。…その刹那に、コンクリの熱い路面の、濃い影に滴り落ちてゆく己れの汗の粒が煌めく様であったりします。その後に疲労で倒れ、見上げた空の高さ。これを描きたい…と、今でも強く感じるのです。

 

だからといって、他の季節に全く思い入れが無いというわけではありません。ただ、私は大好きな夏の光景を描くだけで手一杯なのです。描き足りない。足りな過ぎて、一生、満足することは無いでしょう。

「SE・RIVA 2.6」(もうひとつの湘南)

別の仕事をしながら絵を描く人にとっての大きな問題は創作時間の捻出です。でるもなかさんは、時間をどのように捻出されていますか?    

 

私の稼業(着物の染み抜き職人)は、夕刻5~6時には終わります。1日の仕事を終え、入浴や食事等々を済ませて、21~23時頃に制作しています。居職ですから通勤時間も要らないわけで、制作時間には恵まれている方でしょう。

 

ただ、ちょっとした持病持ちで、毎日服用している薬は副作用として「疲労感」を伴います。そのため、制作に取り掛かるには、イーゼルに掛けたイラスト・ボードに向き合う体力、気力を何とかして奮い起こさなければなりません。こう言うと如何にも勤勉な印象を与えてしまうかもしれませんが、私が実際に絵筆を握るのは、週に4夜程度のことです。

 

それ以外の日は、休んだり、他の用事に当てています。期間は掛かっても納得のゆく作品を、じっくりと描き上げれば良いので、私の場合は、マジメ過ぎない、一所懸命になり過ぎない、ということが長続きの秘訣なのでしょう。

 

​最後に今後の展示の予定とメッセージをお願いします。

 

「夛果海原」の前身とも言える「ココア・タウン」は、私のパートナーである「よねやまゆうこ」の産み出したキャラクター達が存在・活躍する異世界として、私「でるもなか」が描くようになったものです。年月が経ち、それが「夛果海原」として進化を遂げようとしています。

 

また、私が作品制作を続けてこられたのも、「よねやまゆうこ」の支えがあったればこそです。そして、現在は少しずつ増えてきた「でるもなか」の作品を観て下さる方々の存在も、私を勇気づけてくれます。誠にありがたいことです。

◆今後の展示予定

[グループ展]

名称:R2作家展 in 玉川学園

日程:2017年2月1日(水)~6日(火)

時間:10:00~17:00(初日は13時から、最終日は15時まで)

会場:玉川学園購買部ギャラリー(東京都・町田市)

http://www.cafe-gallery-r2.com/

◆でるもなか さんプロフィール

神奈川県相模原市在住。

イタリアのテノール歌手「マリオ・デル=モナコ」さんの名前をアレンジ。色鉛筆や水彩を独学。夏・海・もうひとつの湘南をテーマに据えた「湘南乃夢」シリーズは技術と創造力で緻密に描かれ、不可思議な世界観を表現。車のデザインは何処かノスタルジック。また、イラストアートの他にもフォト・アートなどで活動中。

​◆Webサイトはコチラ↓
https://www.facebook.com/DelMonaca/

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